23「通潤橋の復興とともに」通潤酒造2

熊本県の山都町で、長年、日本酒をつくり続けてきた「通潤酒造」。「通潤」という銘柄は、豪快な放水で知られる「通潤橋(つうじゅんきょう)」にちなんだものです。

台地を潤す通潤橋

通潤橋は水不足に悩む白糸台地に水を送るため、1854年、惣庄屋・布田保之助(ふたやすのすけ)によって造られました。長さ約76メートル、高さ約20メートルという日本最大級の石造りアーチ水路橋で、国の重要文化財に指定されています。橋の上部に3本の石の通水管が設置され、放水は通水管に詰まった堆積物を取り除くために行なわれるものです。

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通潤橋を望む布田保之助の像

厳しい状況の中で挑んだ酒づくり

通潤酒造が誕生したのは、通潤橋が完成する前の1770年。屋号は「備前屋」ですが、布田保之助の姪が酒蔵へ嫁いできた縁もあり、酒の銘柄を「通潤」と定め、今に至ります。

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西郷隆盛や俳人の種田山頭火が訪れるなど、山都町の歴史とともに歩んできた通潤酒造ですが、昨年(2016年)の熊本地震では10棟以上の蔵が損壊し、約4000リットル分もの酒を失う大きな被害を受けました。そんな中、電話やメール、SNSなどで、全国から心配や励ましの声が寄せられました。

通潤酒造の酒の原料となる米は、すべて山都町産です。地震後も農家は米作りに取り組みましたが、酒米は食用として売ることはできません。「農家さんが米を作ってくれるからには、その信頼に応え、何が何でも酒づくりをしないといけない、という思いが蔵で働く皆にはありました」と広報担当の菊池一哲(かずあき)さんは振り返ります。

苦労の末に完成した新酒の出荷が始まると、「待っていたよ」と多くの人に喜ばれました。「私たちの力だけでは、ここまでくることはできませんでした。農家さん、工事や建設業の人たち、町の人たち、全国のお客さま、たくさんの人たちに支えられていることを実感し、再認識させられました」

町のシンボル、通潤橋復活に向けて

通潤橋は熊本地震の激しい揺れに耐え、石橋が崩れることはありませんでしたが、水を送る石管の接合部からの漏水や石材のずれ、橋の上部を覆う土に亀裂が生じるなどの被害が確認され、放水は休止。周辺への立ち入りも禁止されています。

「通潤橋は私たちの生活に直結した文化財です。今も現役の灌漑用水として活躍している人々の生活がかかった橋なのです」と菊池さんは話します。

通潤酒造で使う酒米の中には、通潤橋から農業用水が送られる白糸台地でつくられた米も含まれています。酒造りにも密接に関わる通潤橋の復興を応援したいという思いから、寄付金付きの盃を制作。町内の人々の間にも、復興支援の動きが広がっています。

「いろいろな意味で通潤橋は、本当の町のシンボルになっています。今しか目にすることができない通潤橋の修理工事の様子も見に来ていただきたいですね」と菊池さん。町を訪れ、観光することも復興支援につながるはずです。

工事が行われている通潤橋
復旧工事が行われている通潤橋

山都町では、八朔(旧暦8月1日)の日に「八朔祭(はっさくまつり)」が行われます。豊年祈願と商売繁盛を願い、商店街の各連合が競い合ってつくる「大造り物」は、祭の後も町内に展示されています。2016年の祭では、地震からの復興を願った造り物も見られました。

復興のその先へ

通潤酒造では、平成8年から「観光酒蔵」を始め、観光客に日本酒の魅力を伝えてきました。平成30年度には九州中央自動車道のインターが開通し、通潤橋の放水も再開される予定です。そこで、将来を見据え、築200年の蔵をリノベーションし、フランスのワイン産地の「シャトー」のような観光酒蔵に再生することを目指しています。

現在の酒蔵の試飲スペース
現在の酒蔵の試飲スペース

「日本人が日本酒のことをよく知らないのが現状ですが、歴史やエピソードを少し知るだけで楽しみが広がります。お酒を飲めても飲めなくても面白い、日本酒の入口になるような蔵が目標です。今までイベントができるような場所がなかったのですが、地震で被災したことで、広いスペースが確保できました。ライブや演劇、映画鑑賞など、いろいろなことができる酒蔵になればと思っています」と菊池さんは話してくれました。

通潤橋の復興とともに、酒蔵の未来へ向けて、着実に歩み出しています。

◆通潤橋の復興を応援

現在、通潤橋の周辺は立ち入りが制限されていますが、修理の様子を間近に見ることができる見学所が設けられています(平成31年3月まで公開予定)。
http://www.town.kumamoto-yamato.lg.jp/life/pub/detail.aspx?c_id=46&type=top&id=803

通潤橋保存修理工事 ”見学所”
通潤橋保存修理工事 ”見学所”

039_通潤酒造では、「開運招福 朱盃」一つの売上につき100円を通潤橋復興支援の義援金として寄付しています。詳しくは下記へ。

「開運招福 朱盃」 http://shop.tuzyun.com/html/page12.html
通潤酒造 http://tuzyun.com/

(2017年6月取材/文・写真 ゆうプランニング野口)

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