22「山都町の米、水、人、がつくる酒」通潤酒造1

明和7年(1770年)、回船問屋を営んでいた備前屋勘九郎が、熊本県の東部、九州のほぼ中央に位置する山都町で創業したのが「通潤(つうじゅん)酒造」の始まりです。西南戦争の時には西郷隆盛の本陣ともなった、熊本県で二番目に古い酒蔵です。

おだやかで飲み飽きしない酒を目指して

通潤酒造の日本酒の特徴は、すべてが山都町産だということ。「米も水も人も、場所もすべてが山都産です。味わいはすっきりとした辛口でありながら、口当たりはやわらかです」と広報担当の菊池一哲(かずあき)さんは話します。

原料の酒米は、地元の契約農家でつくられています。「『雲雀(ひばり)』という純米酒は、山下恵さんのお米が原料。山下さんの田んぼからは県指定天然記念物の『池尻の唐傘松』が見えます。高岡慶蔵さんが合鴨農法でつくるお米は、『平家伝説』という純米酒になります。米をつくる場所と人がお酒と合致した『顔が見えるお酒』です」

酒造りに欠かせない水は、周囲のブナ林を通った軟水です。数値の上では辛口でも、甘みを感じるようなやわらかな口当たりは、この水の個性も影響しているようです。

「今の流行りは、華やかでフルーティーな香りが広がるような日本酒ですが、私たちのつくる日本酒は、香りも味もおだやかです。山都町は寒い地域で、料理の味が少し濃いのですが、そういう料理に華やかな香りの酒は合わせにくいかもしれません。一次会から四次会まで(笑)、ずっと通して飲めるようなおだやかな酒を目指しています」

119_

 「熊本酵母」と冬の寒さが深める味わい

通潤酒造の日本酒には、すべて「9号酵母」として知られる「熊本酵母」が使われています。熊本県酒造研究所で生み出された酵母で、品質の高さから日本醸造協会の「きょうかい酵母」に採用され、全国に頒布されています。

「コンクールで入賞するような商品に多く使われている優秀な酵母です。熊本県酒造研究所とは以前からご縁があり、同じ熊本にあるため、元株から生の酵母を分けてもらうことができます。すべての商品に熊本酵母を使うという贅沢なつくり方をしています」

山都町は標高が高く、平野部よりも気温が約4~5度低くなります。「酒は菌がつくってくれるものです。温かいと雑菌が発生しやすくなり、雑味が出るだけでなく、酒自体がつくれない場合もあります。冬は氷点下になり、雪が20~30センチメートル積もることもありますが、この寒さが日本酒づくりに欠かせないのです」

 日本酒との出合いを楽しんで

031_2015年6月に発売され、人気を集めた商品が「純米吟醸 蛍丸(ほたるまる)」です。

「のちに阿蘇大宮司となる恵良(阿蘇)惟澄が、激しい戦いの後、矢部(現在の山都町)の入佐の城に戻り、無数の蛍が刃こぼれした刀の上に集まり消えるという夢を見る。翌朝、欠けていた刃は元通りになっていた」という伝説を基につくられた商品です。「蛍丸」は刀剣を擬人化したオンラインゲームに登場することでも話題です。(詳しくはこちら→http://tuzyun.blogspot.jp/2015/09/2015823.html

熊本地震後の5月に東京のイベントに出店することが決まっていたため、地震の後、準備の様子を発信すると、多くの励ましの声が寄せられました。この商品がきっかけで、「初めて日本酒を飲んだ」という若い人も多いといいます。

日本酒をあまり飲んだことがない人には、「難しく考えずに、まず飲んでみてほしい」と菊池さんは言います。「日本中に1500以上の酒蔵がありますが、どの蔵も地元の料理や地元の人に合わせて酒造りをしているはずなので、旅先のお店で『地元の酒は何がありますか』と聞いて飲んでみると、旅の楽しみも増えると思います。人と一緒で、酒とも出合いです。いろいろな酒に出合ってほしいです」

最後に熊本の好きなところを尋ねると、「豊かさ、でしょうか」と菊池さん。「かつては地元を離れ、外に出たいと思った時期もありました。県外で働いて山都町に戻ってきてから、昔見えなかったものが見えてきました。自然も人も、すべてが豊かだと思います」と話してくれました。

005_
広報担当の菊池一哲さん

◆山都町の「地酒」を販売

通潤酒造の日本酒は、地元の米を使い、地元でつくり、地元の人たちに飲んでもらう、地元に根差した地の酒、「地酒」です。「通潤の酒に出合ってくれた人には、楽しい思いをしてほしいです」と菊池さん。通潤酒造や商品について、詳しくは下記へ。オンラインショップもあります。

通潤酒造 http://www.tuzyun.com/

(2017年6月取材/文・写真 ゆうプランニング野口)

It's only fair to share...Share on Facebook
Tweet about this on TwitterShare on Google+